第八十一話

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第八十一話
五の線2 第八十一話
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注意深くも俊敏に階段を昇りきった三好の目の前には倉庫があった。最近建設されたものらしくガルバリウム鋼板の外壁は真新しく、懐中電灯で照らすと銀色のそれは輝きを帯びていた。

ーこの中に予備電源がある。

彼は倉庫の入り口に手をかけた。鍵がかかっている。シャッターの方に周るもそれも施錠されている。

ー倉庫の裏はどうや。

三好は倉庫の外壁に背を合わせながら、その裏手に回ろうとした。その時である。マチ付きの封筒が倉庫に立てかけられるように放置されていることに気がついた。

ーえ?携帯?

懐中電灯が照らす先には、黒光りする折りたたみ型の携帯電話があった。その携帯は封筒にガムテープのようなもので巻きつけられている。瞬間、彼の背筋に冷たいものが流れた。

ーそう言えば…携帯電話を起爆装置にするマルバクがあるとか聞いたことがある…。

三好は唾を飲み込んだ。

ーまさか…C4か。

三好とその封筒の距離は5メートルも離れていない。仮にいまこの時点でそれが爆発すると彼は無傷ではいられないのは明らかだ。

ーコンドウどうのって次元の話じゃない。こいつをなんとかせんと…。

気が付くと彼は携帯電話を手にしていた。

ー辰巳さんに報告や。

彼は携帯の画面を見た。

ーいや待て。確か携帯の着信を起爆装置にしてマルバクを遠隔操作する方法があるとか聞いたことがある。となると俺のここで携帯で指示を仰ぐのははやめたほうが良い…。

三好は自分の携帯電話の電源を切り、それをしまった。

ーもし…あれが着信起爆を利用しているとしたら…。

三好の心臓は激しく脈打つ。

ーどうする…。

ー時間がない…。

 

鍋島から設置完了のメールを受け取った下間芳夫は時計を見た。時刻は19時11分である。雑踏の中にいる彼はおもむろに電話をかけた。

「Это установка завершена.(設置完了だ)」

「Это место, где пошел?奴はどこに)」

「Кажется, чтобы увидеть фейерверк на расстоянии.(遠くで花火を見るようだ)」

「Это довольно неторопливо(随分と悠長ですね)」

「Нет, я не очень.(いや、そうでもない。)」

「И сказать? (と言うと?)」

「Сатаке и Фурута говорят, что вы находитесь в контакте друг с другом.(佐竹と古田が接触している事を伝えた)」

「Как была реакция?(反応は?)」

「Введите держать спокойствие. Но реальное место, находится в уме не будет ли успокоить.(平静を保って入るが、実際のところ心中穏やかじゃないだろう)」

「Он будет работать, и если да.(ならば、奴は動くでしょうね)」

「Ну я.(ああ)」

 

「おーい。大丈夫かぁ。」

三好は振り向いた。先ほどやり取りをした警備員が階段を登ってきたようだ。

ーまずい…どうする…。

「何か気になってなぁ…ってお前…。」

額から滝のような汗を流し、身動きがとれない様子の三好が警備員の目に飛び込んだ。

「おい!!しっかりせいま!!」

警備員は三好に駆け寄った。

「なんや…凄い汗やがいや…。」

ーこの人を巻き込むわけにはいかん…。

 

「Ли видя фейерверк, доказательств того, что опасаются здесь.(花火を眺めるなんて嘘は、こちらの動きも警戒している証拠ですか。)」

「Bероятно(おそらく)」

「В, и в соответствии с графиком.(では予定通りに)」

「Это стало возможным устранить сожаления человек.(惜しい男を失くすことになるがな)」

下間は時計に目を落とした時刻は19時15分である。

「Тем не менее, Ли Что?(それにしても麗はどうした?)」

「Ах ... что-то, как это ни странно.(あぁ…なんか様子が変ですね。)」

「Но, конечно,(まさかだが)」

「Я также немного волновался.(僕もちょっと心配です)」

「Вот только парень ушел смущенно, план приходит с ума. Каким-то образом белый контроль. (ここであいつが浮足立ってしまったら、計画が狂ってくる。なんとか制御しろ)」

「Вероятно, не только занять еще устал. Не волнуйтесь.(おそらくまだ疲れがとれていないだけでしょう。心配はありませんよ)」

「Хотя я может, если …(それならば良いのだが…)」

「Dad'm порядке. Давай, пожалуйста.(大丈夫ですよお父さん。さあお願いします。)」

 

応援を要請すると言って無線機を手に取ろうとした警備員であったが、三好はそれを制止した。

「なんや。」

「大丈夫や。」

「何言っとるんや大丈夫なわけないやろう。」

「…大丈夫やって言っとるやろ。」

そう言って三好は息がかかるくらいの至近距離にある警備員の姿を改めて見た。全体的にダボッとしたシルエットの半袖制服姿であるが、警備員の肩から腕にかけての筋肉が異様に発達しているのが見て分かった。

「なんねん。何見とらんや。」

「お父さん。肩には自信ありますか…。」

「肩?」

「ええ。」

「お…おう…。こう見えても若いころはアメフトやっとったからな。」

「アメフト?」

「おいや。」

ーそうや。

三好は何かを閃いたようであった。彼は予備電源棟に立てかけられていたC4が入っていると思われる封筒を手にとって警備員に背を向けた。封筒を軽く押さえつけると中に粘土質のものが入っているのか、その形状が変わった。彼はそれを大胆に何度も押さえつけ、その形を楕円球状に変えた。

「おい…あんたどうしたんや。」

無言のまま背を向ける三好の様子に警備員は声をかけた。

「…お父さん。こいつ思いっきり遠くに投げれますか。」

「あ?」

「投げろ。」

「何やお前。」

突然の命令口調に気分を害したのか、警備員は彼に突っかかろうとした。しかし三好はそれを無視し、腰をかがめて封筒を自分の股の間から彼にスナップした。

それをキャッチした警備員は一瞬たじろいだ。

「いいから投げれま!!」

三好の気迫が彼を動かした。

警備員はすうっと息を吸い込んだ。

楕円球型になった封筒をパンっと軽く叩き、数歩後退しそれを右肩に担ぐように彼は振りかぶった。助走をつけた彼はあらんばかりの力を振り絞って手を振りぬき、それを己が手から解き放った。

 

時計の時刻が19時20分を示すと、下間は悠里との電話を切り呟いた。

「Есть начать вы.(はじめようか)」

こう言って彼はある電話番号に電話をかけた。

 

放物線を描いて敷地外の暗闇に吸い込まれたのと同時に爆発が起こった。

「え…。」

あっけにとられた警備員はその場に立ち尽くした。

「セーフ…。」

「は…?」

「うまいこと行った…。」

何が起こったのか未だ飲み込めていない警備員は、そのまま力なくそこに座り込んだ。

三好の無線機に辰巳から連絡が入った。

「大友さん!!大丈夫か!!」

「こちら大友。ブツの処理成功しました。」

「何の音や!?」

「起爆解除不可とみなし、物理的に破壊処理しました。」

「破壊処理…けが人は?」

「ありません。」

「施設への損傷は?」

「ありません。」

「よくやった。」

無線を切った三好は座り込んだ警備員に手を差し出した。

「なにが起こったんや…。」

「ご覧のとおり。」

「あ…あんた…こうなるの分かっとったんか…。」

警備員の身を起こして三好は笑みを浮かべた。

「ここで食い止めたのは、あなたのおかげですよ。」

「は?」

「ナイスプレーでした。」