「Делать то, что место жительства было(なんだ居たのか)」
「Плохо?(悪い?)」
「Услышанным(聞いたぞ。)」
「…。」
「Попробуйте на столько не в личных отношениях.(あまり個人的な付き合いをしないようにさせなさい。)」
部屋をノックする音が聞こえた。
「どうぞ。」
ドアが開かれた。
「おはようございます。下間先生。」
「ああ。おはようございます。細田先生。」
「彼は?」
「ああ、こちらは仁川君です。」
「仁川?」
「ええドットスタッフという会社の社長さんです。」
下間のこの言葉に細田は顎に手をやり、ひと時の間考えた。
「ドットスタッフ…。ひょっとして…ドットメディカルの関連会社ですか?」
「ええ。」
研究室の分厚い専門書籍に目を落としていた彼は、それを閉じて立ち上がった。そしておもむろに名刺を取り出し、細田に渡した。
「初めまして。仁川征爾と申します。」
慌てた様子で細田は鞄の中を弄った。そして彼も仁川に名刺を渡した。
「こちらこそ初めまして。情報工学科の細田と申します。」
「情報工学ですか。」
「いやぁドットメディカル関係の会社の社長さんと偶然お会いできて光栄ですよ。」
「仁川君。細田先生はご覧の通り情報工学専門家だ。彼のゼミから全国各地のITベンダーにも人材が輩出されている。君の親会社には情報事業部みたいなものがあっただろう。もしも細田先生のゼミ生でおたくの親会社に就職したいという人材がいたら、口添えして貰えないかね。」
「他ならぬ下間先生の頼みなら、喜んで協力させてもらいますよ。」
「本当ですか⁉︎」
細田は嬉々とした表情で仁川を見た。
「ええ。」
「ありがとうございます。」
細田は白髪の50代後半と思える風貌の男。翻って仁川は30後半。年配者である彼は若年の仁川に深々と頭を下げた。
「止めてくださいよ。先生。私みたいな若輩者に軽々しく頭なんか下げちゃいけません。」
仁川の言葉に細田はゆっくりと頭を上げた。
「いやー。月曜の朝に先生のゼミ室に来れば良いきっかけが有るかもしれない。下間先生のこの言葉を信じて来てみたら、こうも有難いご縁に恵まれるとは。」
「と申しますと?」
「社長もご存知の通り、大卒の就職率は昔に比べて改善しました。と言っても厳しいものが有るんですよ。特にウチのような情報工学、つまりIT系の会社の求人は厳しい。」
下間は立ち話もなんだと言い、二人に椅子に座るよう促した。彼は研究室の隅に置かれた冷蔵庫からペットボトルのお茶を取り、それを細田に渡した。
「厳しいというのはどういう事でしょうか。私はドットメディカルの人材派遣部門の会社です。IT技術者の需要は依然として根強いものがありますよ。」
「いえ。社長。ですがそのほとんどがSEでしょう。」
「ええ。それが何か?」
「それは低い学歴をお持ちの方がやれば良い事なんです。」
「と、言いますと?」
「言葉は悪いですけど、ああいう職種の人間は自分で何かを考え、創造するという力が欠けている。ただのオペレーターですよ。」
仁川は細田の言葉を黙って聞いた。
「我々の情報工学はそんなオペレーターを養成するためにある学問じゃない。もっとクリエイティブな青写真を描くことができる人材を育成しているんです。SEじゃない。SIですよ。」
「なるほど、先生のおっしゃることも一理あるかも知れませんね。」
「何事も役割というものがあると思うんです。ただただ流れ作業のように何も考えることなく、仕事をこなす。このような人材は何もウチのような国立大出身の人間がやらなくても良い。そこら辺の私大か専門卒に任せてましょう。」
「そうですか。先生のような難関大の人間は、IT業界の頭脳にならなければならんと言うことですね。」
「はい。流石、社長さんですね。」
細田は暫く自論を展開し、研究室を後にした。
「聞きました?自分たちは業界を牽引する人材を育成しているですって。」
「ああ。大胆な話だな。」
「じゃあお聞きしますけど、そんな優秀な人材がなんで就職難になっているんですかね。」
「おいおい。言うな。」
下間は今にも吹き出しそうな顔である。
「IT業界は米国シリコンバレーの独り勝ち。この業界で頭取るんだったら、まずはあそこで就職先を見つけたらどうなんですかね。図体ばっかりでかい日本の会社よりもね。」
「そうだな。」
「ロクに仕事もできないプライドばっかり高い人材を育成するから、日本の競争力は落ちて行くんだよ。現場でもがいてスキルを自分のものにするFラン大卒のほうがお前らのような人間の方が、よっぽどマシだよ。そんなに業界を牽引したいんだったら起業しろよタコ野郎。苦労もろくにせずに旨い汁を啜ることばっかり考えやがって。」
「もう良いだろう。」
「細田のゼミ生はバンバン紹介してください。」
「ん?」
「優先的に絶望を味合わせてあげますから。」
下間はニヤリと笑った。
「Сжимаема и выжать только, я брошу в районе.(絞れるだけ絞って、その辺りに捨ててやる。)」
仁川は机の上に置かれた細田の名刺を破り捨てた。
「Я обезьяна.(猿め)」
「Племянник. И о вашей ранней истории.(おい。さっきの話だが)」
「Что?(何ですか)」
「Что случилось?(何があった?)」
「Там нет отдельной ничего. Тем не менее, только Tatte пошел, чтобы поесть риса.(…別に何もありませんよ。ただ、飯を食べに行ったってだけです。)」
「Слишком много не позволяйте прикладом.(あまり付き合わせるな。)」
「Я знаю.(わかっています。)」
「Переведен Если у вас нет моего стать символом борьбы с Рей. Вы твердо управление белый.(麗には闘争のシンボルになってもらわないといかん。お前がしっかりと管理しろ。)」
「Хорошо.(はい。)」
講義終了のベルが鳴り、ガタゴトと椅子の音が聞こえたかと思えば、四方で人の声が聞こえ出した。相馬は目を覚ました。右ほほが冷たい。彼は自身が机の上につっ伏せるような体勢をとっていることに気がついた。なるほど、そのために自身の唾が引力によって机の上を伸びやかに侵食しているのだ。彼はこの如何ともし難い不快な状況を克服するために、意を決するように顔を上げた。
顔を上げると同時に、エアコンの風が彼の頬に当たった。唾で濡れている彼の頬はその冷気を肌で感じた。咄嗟に彼は鞄からタオルを取り出した。そして頬を拭き、次いで机の上を侵食するそれを拭いた。
「くっせ...。」
誰に言うわけでもない。今自分が感じた有りのままを本能が言わさせた。
「へいへいへい。」
背後から声が聞こえた。
「どんだけ爆睡しとれんて。」
「長谷部?」
「おめぇ昼メシどうすらん?」
「あ?」
「あ?じゃねぇよ。やわらそんな時間やぞ。」
長谷部は講義室の時計を指差した。時刻は11時30分である。
「学食でカレーでも食うわ。てか何でお前、ここに居れんて。」
大学という場は、卒業のための要件である単位を満たせば、好きな講義を取れば良い。相馬と長谷部は友人としての交流は盛んであるが、学業の面では然程関心事が被らず、各々別行動であることが多かった。その為、この場にいる長谷部が意外であったのだ。
「いいがいや。おめぇが元気にやっとるか心配になって様子見に来たんや。」
「なんねん。母さんみたいなこと言うなま。」
「ってか、おめぇガン寝しとんなま。涎くっせ。」
「うっせぇ。」
「お前今日、これからどんな感じなん?」
「え?」
「これからの予定やって。」
「いや、何も。飯食って適当にぶらぶらして帰っかな。」
「ほんなら、一緒にメシでも食いに行かんけ。」
「あ‼︎」
「なんねん。でけぇ声出して。」
「ってかおめぇ。あれ...ほら...。」
「おう。俺もびびった。」
「だら。びびるのはこっちやわいや。幾ら何でも早すぎるわ。」
「知らんわいや。メシ誘ったらなんか分からんけど、来るって言ったんやって。」
「どのタイミングで?」
「ちょっと彼女を尾けてみてんて。」
「いつ?」
「お前と別れて、あの会場に引き返してん。」
「マジか…。」
「そしたら、撤収終わって解散みたいな雰囲気やってん。その時の様子なんやけど…。」
相馬は長谷部の言葉に耳を傾けた。インチョウを中心に運営側のメンバーが円陣を作り、何かの挨拶をしているようだった。長谷部は遠巻きに建物の陰からその様子を観察していたので、その内容までは分からなかったらしい。コミュという会合は参加者も運営側も皆が笑顔という不気味なものであったが、この解散の円陣では随分と様子が違っていたようだ。
「何が?」
「えらいおっそろしい顔しとったんやって。」
「誰が?」
「みんな。」
皆が眉間にしわを寄せるという具体的な表情の描写は彼の説明になかった。とにかく近寄りがたい、冷徹な表情を見せていたと言うのである。特にインチョウは別格で、鬼気迫るものがあったようである。
「何、話しとってんろな。」
「知らん。ただな。」
「なに?」
「岩崎さんが結構責められとったみたい。」
「え?」
「インチョウがやたらあの子に向けて指差しとった。ほんでそれを受けてあの子、すんげぇシュンってなっとってん。」
「岩崎さんが?」
「何かヘマでもしたんか分からんけど、他の連中からも結構つっ突かれとったみたいやった。」
円陣の空気は非常に好ましくない状態であったため、長谷部はその様子を相変わらず遠巻きに観察するしかなかったようだ。
「でも何か知らんけど突然インチョウの表情が柔和になってな。最終的には彼女の肩を軽く叩いてその場はお開きになったんやって。」
「何ねんそれ。」
運営側の連中がその場から引き上げる様を見届け、会場を最後に後にした岩崎を尾けたようである。
「あの子、あの場での吊るし上げが結構応えとったんか、トボトボ歩いとってん。ほやから適当な頃合い見て、あの子の横に車つけて声かけた。」
「何て?」
「今日はありがとう。見学させてもらって勉強になった。なんかさっきと違って随分しょんぼりしとるけど、何かあったん?」
「で?」
「カチ無視。」
「ふんふん。」
「他人の悩みを受け入れるのがコミュやろ。俺で良かったら岩崎さんの話聞くよ。岩崎さんは運営側。参加者をコーディネートばっかりするのも結構疲れるやろ。ほやからどう?」
流石である。この手際の良さ、数々の女性を落としてきた長谷部という男にしかできない芸当だ。流水のように淀みのない自然な切り出しである。
「ほしたら暫くそのまま立ち止まって俺にメモくれた。」
長谷部はポケットからそれを取り出した。そこには10桁の数字が書かれていた。
「おいこれ。」
「そう。岩崎さんの携帯。」
「すげぇ。」
「今日はこのままひとりで帰る。明日またここに連絡くれるかなって。」
「で、昨日昼メシ食いがてらにあの子の話聞いとったんや。」
相馬は驚嘆した。そして同時に京子という意中の人間を前に相当の期間のらりくらりをしている自分の意気地のなさを痛感した。
「あれ?どうしたん。相馬。」
「あ?いや…何でもない。良かったな。」
どこか寂寞の感を禁じ得ない相馬の様子を察知したのか、長谷部は彼にさっさと立てと言った。
「メシ行くぞ。」
「あ、おう。」
「岩崎さんと。」
「え?」
「いいから。」
「え?ちょ…ちょっと待てよ。」
「はいはい。行くぞ行くぞ。岩崎さん待っとるぞ。」
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