12月20日 日曜日 18時28分 県警本部前

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12月20日 日曜日 18時28分 県警本部前
第四章 7
五の線 第三十六話.m4a.mp4
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「あれだな。」

アイドリングをしていた車のエンジンが切られ、中から男が二人現れた。ひとりは身の丈180センチはあるかと思われる体格のよい30代後半と思われる男。彫りの深い彼の顔つきと体格はどこか日本人離れした様子だった。一般的には男前と言われる部類の容姿を持っている。ゆっくりとした彼の動作のひとつひとつが、見かけ以上の威厳を持たせている。一方、もうひとりの男は彼と対照的だった。身長165センチほどの彼は小太りだった。胴長短足の典型的な日本人の体型をしている。彼の表情はどこか柔和であり、他人の警戒感を解きほぐす不思議な魅力を持っているようだった。親しみを覚えるその表情は、おそらく彼の肉付きの良さそして垂れ下がったその目つきからくるものなのだろう。容姿端麗な男と比べて、彼のほうが年齢は若く見えた。

「おおっ寒い。」

小太りの男は車の外にでた途端、身震いをした。体格のよい男の方は彼の言葉に耳を貸さない。彼は少し身をすくめるだけで、そのまま県警の正面玄関の方へと足を進める。体格のよい男と小太りの男とでは歩幅に歴然とした差がある。彼に離されまいと、小太りの男は小走りに続いた。

正面玄関から手に鞄を持った痩身の男が現れた。玄関前に立っている警官は彼の姿を見た瞬間、機敏な動作で敬礼をした。痩身の男はそれに応えるように軽く敬礼をした。彼は正面に待たせてある警察車両にうつむき加減に乗り込もうとした。

「朝倉本部長ですね。」

自分の名前を呼ぶ声に朝倉は振り向いた。そこには体格のよい男と小太りの男の二人がコートを着た姿で立っている。

「東京地検特捜部の直江といいます。」

体格のよい男が言った。

「東京地検特捜部?」

「はい。ちょっとお話を伺いたいことがありまして。ご協力くださいませんか。」

「わたしに?」

「ええ、そうです。」

警戒している朝倉の様子を察したのか、小太りの方の男がそう言って朝倉に一枚のメモを渡した。朝倉は柔和な彼の表情に少し緊張を解されたのか、素直にそれを受け取った。メモには市内のホテルの名前が書かれていた。

「私は東京地検の高山といいます。直江の部下にあたります。内々に話したいことがありますので。」

「わかりました。これから行きましょう。」

朝倉は渡されたメモを両手で丁寧にたたんでそれをポケットにしまった。

「どうぞ、車に乗ってください。」

「いいえ、私たちも車で来ています。後ほどホテルのロビーでお会いしましょう。」

そう言って直江と高山はその場を後にした。朝倉は待たせてある警察車両に乗り込んで、そのドアを閉めた。

「ふーっ。」

深く息をついた瞬間、彼の胸元が震えた。朝倉は胸元から携帯電話を取り出して誰からの着信かを確認した。朝倉はその名前を見るやいなや、深く座っていた体勢を一旦あらためて、背筋を伸ばしその電話に出た。

「お疲れ様です。朝倉です。お久しぶりです。えぇ…。そうですね…。はい。えぇ。はい…。当然、私の責任です。今回の判断はあくまでも私の独断です。ですから責めは私が全て引き受けます。ええ、ええ、はい。そうですねおっしゃるとおりだと思います。そうです。私はなぜあのような人物をこっちに派遣したのか、解せません。」

朝倉を乗せた警察車両は、県警本部から金沢駅までまっすぐに走る片側4車線の道路を軽快に走る。車窓から北陸特有のボタ雪が降っているのがわかった。北陸の雪は北海道などと比較して、気温が高く、空気中に水蒸気を多く含むため、ベチャッとした雪質の時が多い。水分を多く含むため、それが降る様子はボタボタと落ちてくるようで、こちらの方ではボタ雪と呼ぶ。そのボタ雪が窓ガラスに張り付いては溶けて水となり流れ落ちる。そのさまを見ながら朝倉は電話の向こう側の相手と話をしていた。

「いまから特捜の男と会うんですよ。えぇ…。要件は分かりませんが…。えぇ、分かりました。また詳細がわかりましたら報告します。」

電話を切ると朝倉は運転手に共通系無線の音量を上げるように指示した。無線の通信内容は当然、熨子山連続殺人事件の捜査に関する内容のものが飛び交っていた。

「本部より各所。現在までの検問状況をすべてデータで送れ。」

「了解。こちら大聖寺中署、熊坂の検問状況を今から送る。」

「了解。こちら津幡東署。倶利伽羅の検問状況を今から送る。」

ー現場の捜査員の判断を優先せずに、データを吸い上げてそれをすべて自分たちで分析か。効率的とは言えんな…。

無線の様子を聞いていた朝倉は、心のなかで松永を始めとする捜査本部の手法に苦言を呈した。