12月20日 日曜日 11時48分 県道熨子山線 熨子町集落周辺

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12月20日 日曜日 11時48分 県道熨子山線 熨子町集落周辺
第二章 8
五の線 第二十二話.m4a.mp4
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熨子山の登り口にあたる熨子町の集落周辺は、松永率いる捜査本部の指示で検問の体勢をさらに強化する事となった。1時間前には3名の警官が検問にあたっていたが、2名補充され5名が検問にあたっていた。

県道熨子山線は石川県と富山県を結ぶ道でもある。朝方から数台の車輌がこの道を利用して石川、富山の双方から県境を越えて行き来している。生活道路としての性格も強いため、この道を日中に完全封鎖する事は難しい。よって、警官の補充を持ってそれに対応したのである。

また、事件現場から最も近い熨子町の集落では、所轄捜査員が全軒対象の聞き込み捜査を行っていた。当時の車の通行状況や、不審な人物を見なかったかということを中心に尋ね歩いていた。

さすがに山である。平野部ではちらちらと舞っていた雪も、ここでは細かではあるが、着実に振り積もって来ていた。足下を見ると1センチ程は積もってきていた。

検問の任にあたっている、警官たちはその寒さに身をすくめながら、時々この場所を通過する車輌を止め、検査していた。

一台のSUV型の車輌が石川県側からこちらに向かって来た。警官が警備棒を高らかに上げ、止まるように合図する。車輌は減速し、警官の指示通り停車し、運転席に座っていた男はその窓を開けた。

「検問です。どちらにいかれるんですか。」

警官が窓から車内を覗き込みながら運転手に声をかける。

「ちょっと、高岡の方に用事があって。」

「そしたら、免許証見せてもらえます。」

男は車のギアをパーキングに入れ、サイドブレーキを引き、助手席に置いてあった鞄の中からそれを取り出し、警官に渡した。警官は老眼なのか、その免許証を目を細くして見た。

「…村上隆二さんやね。」

「はい。」

「この道はよく利用されんるんかね。」

「まぁ、そうですけど。」

「お仕事は何されとるんかね。」

警官は警戒されないように、方言丸出しで村上に接している。

「政治家の秘書です。」

「へぇ、大変ですね。こんな天気が悪いのに。高岡まで何しに行かれるんかね。」

―いちいち面倒くせぇこと聞くな。

「党の会合です。」

警官は手を挙げて合図をすると、別の警官が二名こちらの方へやって来た。警官は免許証を村上返した。

「そうですか。ご苦労さんです。多分ご存知やと思うけど、ここの近くで事件がさかい、一応この道を通る車の中を改めさせてもらっとるんで、ご協力お願いしますね。」

「どうぞ。雪の中ご苦労様です。」

「じゃあトランク開けてもらえますかね。」

警官がそういうと、他の二人がトランクの方へ回りそれを開いた。瞬間、鼻を突くような臭いが二人を襲った。トランクの中には紙袋がいくつも積まれていた。金沢の老舗漬物屋の印刷が施されている。

「ああ、言うの忘れましたけど、トランクにはかぶら寿司が載ってますんで、臭いますよ。」

運転席側に立っている警官に村上はそう言うと、その警官は中を調べている二人の警官の方を見た。二人はこちらの方をしかめっ面で頷いている。

かぶら寿司は金沢の伝統郷土料理のひとつ。塩漬けにしたカブで、同じく塩漬けにした冬の日本海でとれる旬の魚、鰤をはさみ、人参や昆布と一緒に麹で漬け込み発酵させたものである。なれ鮨の一種とされており、カブの甘みと歯ごたえ、柔らかい鰤の食感、麹の酸味を味わう事ができる。金沢においては冬季限定で出回る高級食品でもある。麹で漬け込むため独特の臭いがし、そのためこの食品を嫌う人間もいる者もいる。

ひととおりトランクの中を確認した警官が、「特に変わった容姿はありません」と報告すると、傍にいた警官が村上に尋ねた。

「もし差し支えがなかったらでいいんですけど、どなたの秘書さんなんですかね。」

「本多善幸です。」

「ああ、それはそれはご苦労様です。道中気をつけてくださいね。」

「みなさんも早く犯人を捕まえてくださいよ。何か、刑事部長さんらしいじゃないですか、今回の容疑者は。」

「ええ、ご迷惑をおかけしてます。ご存知やと思いますけど、犯人は拳銃を持ってる可能性がありますんで、十分ご注意ください。」

「わかりました。じゃあ。」

そう言うと村上はパワーウィンドウのスイッチを入れ窓を閉め、富山方面へと去って行った。