12月20日 日曜日 11時25分 喫茶「ドミノ」

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12月20日 日曜日 11時25分 喫茶「ドミノ」
第二章 3
五の線 第十七話.m4a.mp4
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一時期金沢にはカフェと呼ばれる社交場が乱立した。その手の店は、ひとりで気軽に立ち寄れる場所はあまり多くない。洒落てこぎれいな雰囲気のものが多く、必然的にカップルもしくは複数であるという条件が課せられる箇所が多い。その中においてひとりでくつろげて、誰かを待つのに持ってこいであるのはやはり純喫茶である。サラリーマンや社会人が好む新聞や雑誌、マンガ等が豊富であり、それなりの年齢の世代が集う。店で交わされる会話も良い。何より自分の世界を作れることが純喫茶の魅力でもある。

佐竹はアサフスがある、杜の里の山側環状線から犀川を渡った旭町にある純喫茶「ドミノ」にいた。高校時代、何度か同じ部活の連中とここで学生セットなるボリューム満点の定食を食した事がある。佐竹にとっては高校卒業以後も、何度かこの店は利用しているので、そこまで懐かしさはない。しかし、赤松とこの店に来るのは高校卒業以来で十八年ぶりとなる。

佐竹は自分を除いて店主以外誰もいない店の中で、一番奥のテーブル席に座ってマンガを読んでいた。

店の外で車のドアが閉められる音が聞こえた。それから20秒後に店のドアが開かれ赤松が店内に入ってきた。

赤松はカウンターに立つ店主にコーヒーを注文し、そのまま佐竹の正面に座った。

すぐに店の店員がおしぼりと水を持ってきた。赤松は湯気の出るそれで手を拭き、続いて顔をしっかりと拭いた。

「あのさ、お前どう思う。」

佐竹は切り出した。

顔を拭いていたおしぼりを丁寧にたたんで赤松はうつむいたまま答えた。

「信じられんよ…。本当に。」

赤松は「それに」と付け加えて話し続けた。

「今、報道されている被害者の一人が実は昔ウチでバイトしていた女の子なんだよ。」

「えっ。」

「何が何だかさっぱり分からん。俺のかみさんもショックを受けてさっきから仕事が手につかない状態だ。」

「お前の奥さんは一色とお前の繋がりを知ってんのか。」

「いや、詳しくは知らないはずだ。だからまだ救われている。そんな事知ったらあいつパニックになっちまう。」

コーヒーが出され、赤松はそれに口をつけた。

「なぁ佐竹。お前はどう思ってんだ。この事件の事。」

佐竹は手に持っていたコミックをテーブルの上に置いた。

「お前と同じだよ。信じられん。」そういうと佐竹は、先ほど村上と電話のやり取りをしていた事を赤松に報告した。村上は現在、本多善幸の秘書である事を説明し、今回の事件に関しては、佐竹は過去の付き合いだと割り切ってしまうのが得策であると進言したが村上に一蹴された事を話した。

「あいつらしいな。相変わらず熱い男だ。」

「ああ、熱くなるとどうにも止まらん奴だよ。今でもな。」

「で、それに感化されてお前は今この場にいる訳だな。」

自分はそうは思わないのだが、結果として見れば赤松の言う通りだ。

「お前ら十八年経っても変わらんな。」

「そうか…。」

「でもな、俺はちょっと複雑なんだよ。」

「そうだな…。被害者はお前のところで働いていた子だし、容疑者は昔の同級生だし…。まさかそんな状況だとは知らなかった。すまん。」

赤松はため息をついてしばらく黙り込んだ。

「謝るなよ。別にお前が悪い訳じゃない。あのさ、お前が村上に言ったことは一理あると思うんだ。むしろ正しいと思う。いくら昔強い繋がりがあったとしても、それ以来疎遠であれば昔は昔、今は今だと思う。だから、俺は容疑者を憎む立場の人間だ。」

赤松は半分に減ったコーヒーの中にフレッシュを注ぎ、それをかき混ぜた。

「でもな、実は俺…一色と去年の夏に会っているんだよ。」

「え?」

「去年の梅雨の時期だよ。あいつウチの店に来てさ…。」

そういうと赤松は当時の事を振り返り始めた。